北海道で、現代も
不完全高断熱高気密住宅寿命が短い!寒い...
建つ理由

住宅の省エネ・住環境・建物寿命問題は、現代でも解決していない!

北海道内で現在建てられている新築戸建て住宅は、暖かく、省エネで、結露もなく、50年以上の寿命がある。大事なのはデザインや価格だ、とお考えの方もいるかもしれません。しかし、2018年現在でも、寒い、暖房エネルギー消費が多すぎる家もまだ建てられています。壁の中の結露が木材を腐らせ、断熱材の性能を劣化させている寿命の短い住宅はあります。

人生で最も高い買い物は「住宅」。
一番長い時間を過ごすのも「住宅」。

にもかかわらず学校では良い家の建て方、良い住宅会社の見分け方は教えてくれませんでした。家を建てる人が自ら、断熱・気密・換気・暖房に関する最低限の知識を持たないと、快適で省エネ、そして寿命の長い家を建てられる住宅会社を見分けるのは困難です。

今回は、北海道の住宅が過去50年間でどのように改善されたか、現在もまだどんな課題があるのかをまとめました。ぜひお読みください。

北海道の住宅 
厳しい寒さとの闘い

2018年 道内主要都市別気温
  最高気温 最低気温
札幌 33.9 -12.7
旭川 34.1 -20.4
函館 30.5 -13.7
帯広 34.5 -21.3
釧路 30.1 -16.9
苫小牧 31.6 -18.1
小樽 33.9 -11.4
北見 36.9 -23.8
室蘭 29.6 -10.1

※最高気温は7月31日まで

このデータは2018年道内主要都市の最高気温と最低気温(気象庁)です。北海道の季節による寒暖の差は非常に大きく、特に盆地の旭川・帯広・北見などは、約60℃近い寒暖差があります。九州や関西などの住宅は暑さ対策が軸で寒さ対策はほどほど、でも乗り切れるかもしれません。

しかし北海道の住宅の場合は、寒さ対策はもちろん最重要。そして夏も30℃を超え、近年は猛暑も増えています。さらには昼夜の寒暖差も激しいことを踏まえると、気温の激変を和らげて、住人を守る高性能住宅が必要といえるでしょう。

もう一つ気になる点があります。北海道に大規模な自然災害が発生したとして、それがマイナス20℃近い真冬だったらどうなるでしょうか。避難所になるはずの体育館は断熱性能が低くて天井も高いので数台の暖房機程度では暖まりません。

「避難所が寒すぎて寝ることすらできない」という課題を北海道内の自治体、大学等は懸念し、対策を進めているところですが、世界的に見ても、積雪寒冷地に人口10万人以上の地方都市が3つもある国は稀です。避難所の防寒・暖房対策は現状では不十分な状況です。

北海道内の真冬では、災害時に避難所には避難できないかもしれない。そう覚悟し、自宅が停電になっても、数日は寒さに耐えられる性能を持った家を手に入れるという自衛策が必要です。

北海道の住宅で
断熱・気密化が始まった!
1950年~70年代

1. 本州と同様の仕様で建てられた住宅

1950年ころまでは、北海道の木造住宅も、本州の住宅とさほど変わらない仕様で家を建てていました。つまり夏の暑さをしのぐ風通しの良さを重視した住宅です。断熱材が薄い・あるいは入っていないので室内も冷え切ります。気密施工をしていないので、家の中に冷気が簡単に侵入します。こうした、断熱がほとんどなされていない住宅は家の中でも寒さに耐える暮らしでした。

2. 初期の断熱は「わらくず」や「おがくず」。ブロック造住宅も

少しでも家の中を暖かくしようと、1950年代以降、木造住宅に「わらくず」「おがくず」などを断熱材として使う動きがありましたが、吸湿性があるためカビが生える、ネズミが住み着きやすいなどの問題がありました。1960~70年代には道内各地の公営住宅・公社住宅でコンクリートブロックを使った「防寒住宅」が建設されました。耐火性能・気密性能が高く、戦後混乱期の木材供給不足も背景にありました。ただし断熱性能は不十分で、後述しますが結露問題も発生しました。

当時の木造住宅

3. グラスウール断熱材・アルミサッシが普及

転機となったのは1973年の第1次オイルショックでした。それまでの住宅では家を暖めるために、年間で3,000リットル以上の灯油が必要でしたが、灯油の高騰で、灯油の大量使用は事実上不可能になりました。この時期に安定供給が可能になった断熱材「グラスウール」を多くの住宅会社が採用。グラウスールを壁に張り巡らせる厚みが25ミリから50ミリ、そして100ミリへと厚くなっていきました。窓も木製の単板から、ペアガラス入りのアルミの二重サッシに変わり、北海道の木造住宅の断熱・気密性能は向上しました。

水蒸気・結露が木材を腐らせ、
断熱性能も落とす
1970年代

4. 北海道の住宅で床が落ちるナミダタケ被害が続出!社会問題に

壁に断熱材を100ミリ詰め込むなど、断熱性能強化で暖かくなった北海道の住宅で、1977年頃から、別の大問題が発生しました。新築から2年程度の住宅で1階の床下にナミダタケというキノコが発生し、床を支える木材などが腐って落ちるといった事例が1977年から79年の札幌市内だけでも200件近い報告があり、テレビ報道や、北海道議会でも扱われるなど社会問題化したのです。住宅性能向上に取り組んできた北海道内の住宅業界にとっても衝撃的な出来事であり、当初は原因も分からない状況でした。

床下に発生したナミダタケの綿状の菌糸
引用元: http://www.iesu.co.jp/shinbun/2003/15-7-5.htm#2

5. ナミダタケ被害の原因は?

新築住宅の床を腐らせたナミダタケは、低温や多湿を好む、木材組織を破壊する、菌糸をばらまいて急速に拡大するなどの性質がありました。当時の住宅は、このナミダタケが繁殖しやすい条件が揃っていました。

原因1 壁内結露

水蒸気は、多い方から少ない方にどんどん流れる性質があります。住宅の室内は、炊事や洗濯、人体からも水蒸気が発散され続けるので、室内の空気は多くの水蒸気を含んでいます。一方、冬の屋外は乾燥しています。つまり冬場は、室内の水蒸気は屋外に出ようとします。水蒸気は約100万分の2ミリという小さな分子なので壁のボードなども通り抜け、もし壁の中の温度が低ければ、そこで結露します。また、それ以上に、当時の住宅は気密性能が低い(気密施工という発想も無かった)ため、室内から壁に向かって空気漏れと湿気移動が生じ、壁内に水蒸気が移動し、壁の中の木材を腐らせ、カビやナミダタケの温床になり、断熱材の性能も悪化させました。

オイルショックを契機に、カナダ政府が開発を進めた、エネルギーを節約し高い居住環境を実現するツーバイフォー住宅「R-2000住宅」の施工マニュアルにも住宅内の湿気移動の仕組みが詳述されています

原因2 床下地盤からの放湿

現代の住宅では、床下の土から放湿される湿気を防ぐためにグランドカバーがされていますが当時はありませんでした。床下の土からの湿気供給、そして室内からの暖かい空気が床下に入り、ナミダタケの大繁殖が起きたと考えられています。

原因3 その他

当時は木材を未乾燥のまま住宅施工に使うのが一般的でした。それでも木材は徐々に乾燥するハズですが、室内や床下から多量の湿気供給がなされると乾燥できず、腐る原因になりました。また防腐処理の不徹底、床下換気の配慮不足、気密性能不足、その他も含めた複合的な要因で問題が生じたと考えられています。

水蒸気が住宅を劣化させる

厚い断熱材を施工するだけで省エネで暖かい家が実現する、という楽観的な考えは成立しないということを北海道の住宅業界は学びました。

「ナミダタケ被害」のような極端な問題は、現代ではほぼ見られなくなりました。北海道の住宅業界の知識・技術、そして建材の進歩などで問題はある程度抑えることができたのです。しかし、住宅リフォームで壁の中や床下を点検すれば、木材が腐ったり、断熱材が濡れて断熱性能が悪化しているケースは今でも珍しくありません。そして現在建てられている新築住宅でも、その根本原因が解決していないものもあります。

既存住宅の壁を剥がすと壁内で木材が腐り、断熱材も劣化しているケースも多い

壁や床下の木材が腐ると、住宅の耐震性能や寿命は急速に悪化します。壁の中の断熱材が、内部結露の影響で性能が落ちると、家は寒くなり、暖房費もかさみます。結露がカビを育て、室内にカビの胞子が舞えば、住人の健康にも悪影響が及びます。

住宅オーナーの知らないうちに、壁の中や床下で住宅の劣化が急速に進行し、築10~20年のメンテナンスやリフォームのタイミングでやっと発覚!大規模修繕が必要になりオーナーは愕然とする、という話は決して珍しくありません。メンテナンスやリフォームの費用がかかり、中古住宅としても高値で売ることが難しくなります。

住宅業界の専門紙・北海道住宅新聞社が、昭和59年、住宅会社向けに行った住宅セミナーの資料より。断熱材を厚くするだけでは断熱性能が発揮できない、壁内結露による木材の腐朽が進む点などを解説

戸建て住宅で、一ヶ月の暖房費(灯油代や電気代など)が10万円を超える経験をしている人もいます。暖房費を節約しようと冬場は使用する部屋数を減らして狭い空間で暮らす、寝る際には暖房を切り、その代わり掛け布団をたくさん掛けて寒さに耐えるなど、我慢や不便を強いられる住環境です。

お風呂や玄関ホール、2階の寝室、キッチンなど、暖房機がない部屋は特に寒く、暖かいリビングなどから、お風呂や脱衣室、トイレなどに移動する際に血圧が急変動し、心筋梗塞や脳卒中で倒れる、ヒートショックとよばれる現象が起きます。日本では交通事故死者数よりも多くの人が、住宅内の温度差が引き起こすヒートショックで亡くなっています。

「古民家」暮らしに憧れる人もたくさんいますが、北海道では、古民家を買う人がほとんどいないのは、断熱材のほぼ入っていない昔の家で暮らせるほど、北海道の冬の寒さは甘くないから、というのも一因です。

在来工法はどう対策したか?

では「少ない暖房費で暖かい家」そして「木材や断熱材が劣化しない高性能・長寿命住宅」はどうすれば実現するのでしょうか。

日本全国の木造住宅で主流を占める構法、在来構法を採用する北海道の住宅会社の場合、この問題に対し、

1. 気密性能を高め、室内の空気や水蒸気を壁内に極力入れない

2. 壁内の断熱材を適正に施工し断熱欠損を無くす

3. 床下から壁内を貫流する気流を止め、断熱材の性能を十分に発揮させる

4. 壁内に溜まった結露を逃がす「通気層」を壁内に設置する

5. 厚手の防湿・気密シートやプレカットグラウスールの使用など建材の強化

6. 高性能換気設備の設置や全室暖房化

ほかにもありますが、こうした数多くの対策を、住宅会社の設計や現場の現場監督、大工や職人が理論と技術、そして意識の向上などを図りながら改善していきました。ツーバイフォー構法などでも、手法は異なりますが同様の対策を行っています。

こうした対策は、現代でも、住宅会社によって、理解度・必要なスキル・徹底するための意識の高さ、などに差があります。現場の大工・職人のスキルや責任感に依存する部分も多いため、現場の研修・教育の徹底と、気密測定などによるチェックなどを日々行わないと、不十分な性能の家が建つリスクは常にあります。

住宅の省エネ性能が注目される中で、北海道の住宅会社に限らず東北、関東、そして関西など日本中の住宅会社が、住宅の高断熱・高気密化に取り組むようになった今、この問題は日本全国の木造住宅の現場で発生している問題になりました。

こうした対策は手間とコストもかかります。お客様と契約し、完成引き渡しして1~2年では、こうした点は発覚しない点でもあります。目先の売上げや利益を優先する住宅会社なら、こうした部分は手抜きして、宣伝・営業・企画など別の面を頑張った方が・・・という発想にもなりかねません。

この段階で、別の解決策を見いだした住宅会社もあります。高断熱・高気密住宅の導入、そして前述の「内部結露」対策などを、いち早く取り組み、住宅性能の確保を現場の意識やスキルだけに依存せず、より安定した高性能住宅を実現する独自の技術を開発し、改善を続けている「FPの家」の取組です。

経年劣化しない本物
高断熱高気密住宅づくり